自然と人が集まる家に憧れる
私は一人っ子で両親が共働きだったので、小学校の低学年の頃から鍵っ子だった。両親は忙しかったが二人ともしっかり私に愛情を注いでくれ、鍵っ子だからと不幸に感じたことはなかった。高学年になると自分でもできる範囲で家事を手伝い、家族3人で協力し、仲良くやってきたと思っている。自分の家族や家庭環境に不満は全くないのだが、やっぱりお友達の家など、いつも人で一杯の家庭には憧れの気持ちを持っていた。
中学の時からの親友である明日香は、地元で何代か続く老舗のお蕎麦屋さんの娘だった。そのお店は割と高級店で知られ、うちの家ではちょっと特別な時に利用するようなお店だったが、明日香のところに遊びに行くと、おやつとしてお蕎麦やうどんが出てくるのがいつもとても嬉しかった。お蕎麦を届けてくれるのは明日香のお母さんの時もあれば、お店のウエイトレスさんだったりする。その人たちとちょっとした言葉を交わしたり、お店の離れが自宅になっているので、明日香と一緒にお店の通用口から入って奥の居住スペースを目指す時、明日香のお父さんや調理場のスタッフさんたちから声をかけられるのが楽しかった。お店をしている関係もあるのかもしれないが、明日香の家にはいつも自然と人が集まり、明日香は面倒くさいと笑っていたが、鍵っ子の私にはとても暖かい空間であると感じられたのだ。
私は現在、就職で実家を離れ、都会で独り暮らしをしている。一人の部屋に戻るのは、鍵っ子の頃と同じで慣れているので寂しくもないが、明日香や彼女の家族のことを思い出すと、皆さん元気でやっているだろうかと思わずにはいられない。次の帰省の時には、思い切って彼女に連絡をしてみようかと思う。
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